松尾由美さんの本を読むのは多分初めて。ミステリー色の強い、ダーク・ファンタジー短編集です。
読後感は相当悪く、なんとも言えない嫌な気分になれます。収録作7編のうち約半分はミステリ風の作りになっているのですが、解答はあくまで仄めかされる程度。真相は容易に想像できるようになっているのに、でも本当のところはどうか書かれていないので、自分の想像をもてあまして非常にモヤモヤとした気分が残ります。こういうの、私は好きですけど、肌にあわない人はダメでしょうね。ミステリ風ではありますが、ミステリと謳わずダーク・ファンタジーとしたのは、正解だったと思います。
全7編のうち残り半分は、奇妙な味の物語。なにか特別な事件が起きたわけではなく、お話も結局なんだったのか分からず、でも読後、嫌な気持ちだけは残されるという……これもダメな人にはダメな作品群だと思います。その昔放映されていた『世にも奇妙な物語』などが好きな人だったら、はまるかもしれません。
全体的によくできた短編集。ちょっと嫌なお話が好きな人にはお勧めです。
- 作者: 松尾由美
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/12/08
- メディア: 文庫
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ここからはネタバレ。
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収録作7編のうち、ミステリ色が強いのは「琥珀のなかの虫」「恐ろしい絵」「厄介なティー・パーティ」の3本。「裏庭には」「窪地公園で」も含めてもいいかもしれません。
奇妙な味のお話は、「麻疹」と、表題作の「いつもの道、ちがう角」の2本です。あくまで私が感じた印象なので、人によっては違うかもしれませんが。
一番好きな作品は、「厄介なティー・パーティ」でしょうか。飼い犬を殺された女性、須崎夫人が、その犯人はマンションの上の階にいる誰かに違いないと決めつけ、そこの住人を自分の部屋に呼びつける。その口実がタイトルになっているティー・パーティなわけですが。須崎夫人のその言動は静かな狂気が感じられ、でもこんな人物、身近にもいるよなぁと思わせるところがまた嫌な気分にさせてくれます。
そして、須崎夫人の追求を逃れようとする住人たちと、その後仄めかされる(でも真実かどうかは分からない)犬殺しの正体が、また不快な気分を味わわせてくれます。
次点は「裏庭には」。表題作は、解説の西澤保彦さんが勧めるほどには楽しめませんでした。