久道進の日記帳

文芸同人サークル「Whatnot」活動報告/本、アニメ、映画、ボードゲーム等の感想・レビュー

「ひと夏の経験値」秋口ぎぐる

 評判は聞いていましたが……噂通り、一部の人間にとっては非常にイタイ小説ですね。
 舞台は一九九〇年代初頭のTRPGサークルで、主人公はTRPGにはまっている男子校の二年生。例会にやってきたTRPG初心者の美少女相手に、キャンペーンシナリオのGMをすることになった主人公が、その少女に惹かれながらも、「彼女の気を惹きたくて盛り上げようとしてるわけじゃない!」みたいなことを言い出しちゃったりするお話なわけですが……ああ、イタイイタイ。読んでいてのたうち回ってしまいましたよ。TRPGオタクの変なプライドとか、思い当たることが多すぎて。
 主人公の恋愛に対する態度もまたイタくて。

 草食動物は思い悩む。自分には価値がない。彼女に好かれるだけの価値がない。だからその価値を生みださなくちゃならない。それができれば彼女だって振り向いてくれるはずだ!――そんなことを考える。

(本文147ページより)

 ……イタタタタ。ああ、ほんとイタイですね。今考えてみると、当時流行っていた「ときめきメモリアル」って、こういう恋愛観をもとにしたゲームだったんですよね。好きな子に告白して貰うために、自キャラのパラメータを上げていくゲームだったわけで……その辺が恋愛に奥手なオタクにうけていたのかもしれませんね。

 このイタさが理解できる人は楽しめる小説だと思います。TRPGにはまった過去があるのなら尚更。却って反感を覚える可能性も大ですが。それ以外の人は、読んでも多分なにが面白いのか分からないと思います。
 ……私はもちろん楽しんでしまいましたよ。ああ、イタイイタイ……。

ひと夏の経験値 (富士見ドラゴンブック)

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