久道進の日記帳

文芸同人サークル「Whatnot」活動報告/本、アニメ、映画、ボードゲーム等の感想・レビュー

「今昔奇怪録」朱雀門出

 第16回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作を含む5編を収録。
「今昔奇怪録」は、町会館で見つけた町の怪異を記録した本、それを読み進めるうちに身辺で異常が起きていくというお話。記載されている怪異が実際にありそうで、そのアイディアが楽しかったです。
「疱瘡婆」は、疱瘡で他界した愛娘の墓が荒らされ、死肉を狙う存在が噂されるというもの。個人的には一番好み。古い怪談を思わせる雰囲気が素晴らしく、落ちも味わいがあります。愛娘を失った親の気持ち、壊れた心情の描き方が本当に上手いです。
「釋迦狂い」は、ファンによって殺された伝説の力士、その死をテーマにしたアトラクションで起きる悪夢。「きも」は、死んだはずの研究生の名前で置かれた細胞培養のシャーレによって起きる恐怖。どちらも現代的なホラーとして、王道の作り。でもどこか怪談を思わせるモノが内包されているようにも思えました。
 最後の「狂覚(ポンドゥス・アニマエ)」は、被験者、干渉者、観察者、統括者によって語られる謎の実験の顛末。実験作のようにも思えました。正気の淵に立っているような語りが魅力。
 バラエティーに富んだ短編集で、良い雰囲気の作品集。日本ホラー小説大賞は、やっぱり当たりが多いですね。

今昔奇怪録 (角川ホラー文庫)

今昔奇怪録 (角川ホラー文庫)