名家のお嬢様や、それに関わる女性たちの周りで起きる残酷な事件を描いた、連作ミステリー。大学に通うお嬢様たちの読書サークル「バベルの会」という設定が、各短編を緩く繋いでいます。
雰囲気作りの非常に上手い作品集。大正や昭和初期の上流階級を思わせる、ちょっと浮世離れした世界がまず魅力的でした。トリックで驚かされるミステリーではありませんが、作品で語られている出来事にいったいどういう結末が待っているのかが気になり、先を読ませるお話になっています。
帯に書かれている通り、最後の一行が非常に効果的。作品をきっちりしめる言葉で、非常にきれいに落ちている感じです。終わりの一文がしっかりした短編の読後感はやっぱり良いですね。いや、お話自体はすごく邪悪なんですけれど。
5作の内、個人的なお気に入りは「北の館の罪人」と「玉野五十鈴の誉れ」の二つ。
「北の館の罪人」は、妾腹の娘が、本家で屋敷に幽閉されている男の世話をすることになり、やがてその男からいろいろな買い物を命じられるようになるのだが……というお話。
「玉野五十鈴の誉れ」は、家を継ぐ者として厳しく育てられた娘と、その娘の使用人を命じられた少女の関係を描いたお話。個人的なベストはこちら。残酷だけど、でも同時にとても美しいとも思ってしまいました。
別荘の管理を任されながら、客が訪れないことを残念に思っていた使用人が、ある日一人の遭難者を救助して……という「山荘秘聞」も、結末は予想できるのに、その語りの上手さに引き込まれました。
ミステリーや文学、芸術に関する小ネタも多く、詳しい人にはそういったネタも楽しめるのだろうなぁと思ったり。
良い連作ミステリーの短編集でした。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06/26
- メディア: 文庫
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