小川一水さん初の時間SF長篇、とのこと。初めてとは思えないほど面白かったです。
時間SFとしてのアイディアがまず面白くて。襲いくる戦闘機械から地球を守り、人類が生き残る時間枝を作り出すために、積極的に過去に干渉し、改変しようとするというのは、結構珍しいと思います。普通はパラドックスを防ぐことや、変わってしまった未来の修正が、時間SFではお話の中心にされるものですし。過去に干渉し、歴史が変わることによって時間枝が分岐する……平行世界のアイディアを使っていても、ここまで積極的に過去を変えようとするお話は、あまりないと思います。
時間SFのアイディアも面白いですが、人間ドラマも秀逸で。もとの未来には戻れないことがわかっていながら、過去に向かうメッセンジャーたち。人類が生き残る時間枝を生みだすことを第一に考えているため、人に対して逆に酷薄な性格になっている戦略知性体のカッティ・サーク。巫王としての任を疎んじていたのに、メッセンジャーのオーヴィルとともに戦ううちに、自分の役目を自覚していく卑弥呼こと彌与。出てくるキャラクターは皆魅力的で、彼らの戦いに自然に感情移入できます。
物語の終わりが非常に力強く、きれいなのも印象的でした。時間SFで、内容が生き残りをかけた戦いですから、悲惨なラストや、もしくはもっとぼかした終わり方も覚悟していたのですけどね。
いい本読みました。
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 文庫
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「老ヴォールの惑星」も大変面白かったですし、他の作品も読みたくなったのですけど……昔のライトノベルを手に入れるのは難しいかな。