久道進の日記帳

文芸同人サークル「Whatnot」活動報告/本、アニメ、映画、ボードゲーム等の感想・レビュー

「時砂の王」小川一水

 小川一水さん初の時間SF長篇、とのこと。初めてとは思えないほど面白かったです。
 時間SFとしてのアイディアがまず面白くて。襲いくる戦闘機械から地球を守り、人類が生き残る時間枝を作り出すために、積極的に過去に干渉し、改変しようとするというのは、結構珍しいと思います。普通はパラドックスを防ぐことや、変わってしまった未来の修正が、時間SFではお話の中心にされるものですし。過去に干渉し、歴史が変わることによって時間枝が分岐する……平行世界のアイディアを使っていても、ここまで積極的に過去を変えようとするお話は、あまりないと思います。
 時間SFのアイディアも面白いですが、人間ドラマも秀逸で。もとの未来には戻れないことがわかっていながら、過去に向かうメッセンジャーたち。人類が生き残る時間枝を生みだすことを第一に考えているため、人に対して逆に酷薄な性格になっている戦略知性体のカッティ・サーク。巫王としての任を疎んじていたのに、メッセンジャーのオーヴィルとともに戦ううちに、自分の役目を自覚していく卑弥呼こと彌与。出てくるキャラクターは皆魅力的で、彼らの戦いに自然に感情移入できます。
 物語の終わりが非常に力強く、きれいなのも印象的でした。時間SFで、内容が生き残りをかけた戦いですから、悲惨なラストや、もしくはもっとぼかした終わり方も覚悟していたのですけどね。
 いい本読みました。

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

「老ヴォールの惑星」も大変面白かったですし、他の作品も読みたくなったのですけど……昔のライトノベルを手に入れるのは難しいかな。