久道進の日記帳

文芸同人サークル「Whatnot」活動報告/本、アニメ、映画、ボードゲーム等の感想・レビュー

「虚構機関 年刊日本SF傑作選」大森望、日下三蔵編

 2007年度発表のSF作品のベスト傑作選。コミック1作にエッセイ1本を含めた16作を収録。傑作選の名前に相応しい贅沢な構成で、現在活躍されている作家の作品がしっかりまとめられている印象でした。これ一冊を読めば、読んでおくべき短編作品は最低限チェックできると思います。
 純文学寄りの作品から軽い感触のもの、ショートショートなどもあって、作風は幅広かったです。個人的な好みを語ると、小川一水さんの「グラスハートが割れないように」、林譲治さんの「大使の孤独」、伊藤計劃さんの「The Indifference Engine」が特にお気に入りでした。
「グラスハートが割れないように」は、現在のニューエイジ疑似科学サプリメント等を題材にしたと思われる作品。ニューエイジにはまった人の言い方や反論、論争がリアル。でもそれらを強く批判したものではなく、ある程度批判しつつも上手く良い恋愛話にまとめた印象です。疑似科学にはまってしまう人へのフォローっぽいところもあったり。物足りないところもありましたけれど、全体のバランスから考えると、こういうまとめ方の方が物語としては良いんでしょうね。強い批判は、批判する側の自己満足になりがちですし。
「大使の孤独」は、ストリンガーという知的生命体とのファーストコンタクトと交流、そこから起きてしまった殺人事件のミステリ。ストリンガーという地球外生命体の生態と、コンタクトの問題点がうまくミステリの謎解きになっていて面白い。読後が爽やかなのも良。シリーズ作は買っているのに積みです……読まないと。
The Indifference Engine」、民族紛争テーマ。少年兵が停戦後、NGOの施設で、相手の部族に対しての憎しみをなくすための処置をされて……というもの。平和活動やNGOに対しての皮肉っぽいところもあり、綺麗事ではどうにもならない現実が描かれていますね。そういったテーマ的な面でも考えさせられますが、その辺を抜きにしても、小説として読ませる力は一番強いです。純粋に面白い。
 他の作品も、個人的好みから外れることはあっても、総じて面白かったです。企画として長く続いてくれることを願ってます。

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

 それにしても、改めて伊藤計劃さんの早逝が惜しまれますね……。