久道進の日記帳

文芸同人サークル「Whatnot」活動報告/本、アニメ、映画、ボードゲーム等の感想・レビュー

「ハル」瀬名秀明

「いいか、もうロボットはSFのものじゃなくなったんだ」*1というのは、表題作「ハル」の中の台詞ですが、本書はまさにそれを表しているような作品集だと思いました。ロボットの存在をどのように考え、社会の中で利用し、どう付き合っていくかというのは、もう現実の問題なんですよね。決して空想で済むお話ではなくなっているわけで。
 SF論争みたいなことをするつもりはなくて、人によっては本書も充分SFとして楽しめるとは思うのですが……現在のロボット技術について考えさせられる、現代の小説でもあると思いました。地雷除去ロボットを中心に据えた「見護るものたち」なんて、本当にそうで、SFテーマというより、今の技術や研究方法を問うているように思えましたし。
「ハル」「夏のロボット」「アトムの子」も、ロボットとの向き合い方を考えさせられるものの、やっぱり現代小説の雰囲気がします。
 唯一の例外は「亜希への扉」でしょうか。本書の中で一番好きな作品ですが、これはなんというか、SFの空気が感じ取れて。どう言葉にすればいいのか、ちょっと思いつかないのですが……私はそう感じたというだけですし。*2
 SFになにを期待するのかにもよるのでしょうけどね。
 私個人の総評としては……SFとしては物足りなく、でもロボットテーマの小説としては面白いという、複雑な感想になってしまいました。

ハル (文春文庫)

ハル (文春文庫)

*1:55ページより

*2:タイトルはやっぱり、「夏への扉」を意識してつけたものなんでしょうね。