「いいか、もうロボットはSFのものじゃなくなったんだ」*1というのは、表題作「ハル」の中の台詞ですが、本書はまさにそれを表しているような作品集だと思いました。ロボットの存在をどのように考え、社会の中で利用し、どう付き合っていくかというのは、もう現実の問題なんですよね。決して空想で済むお話ではなくなっているわけで。
SF論争みたいなことをするつもりはなくて、人によっては本書も充分SFとして楽しめるとは思うのですが……現在のロボット技術について考えさせられる、現代の小説でもあると思いました。地雷除去ロボットを中心に据えた「見護るものたち」なんて、本当にそうで、SFテーマというより、今の技術や研究方法を問うているように思えましたし。
「ハル」「夏のロボット」「アトムの子」も、ロボットとの向き合い方を考えさせられるものの、やっぱり現代小説の雰囲気がします。
唯一の例外は「亜希への扉」でしょうか。本書の中で一番好きな作品ですが、これはなんというか、SFの空気が感じ取れて。どう言葉にすればいいのか、ちょっと思いつかないのですが……私はそう感じたというだけですし。*2
SFになにを期待するのかにもよるのでしょうけどね。
私個人の総評としては……SFとしては物足りなく、でもロボットテーマの小説としては面白いという、複雑な感想になってしまいました。
- 作者: 瀬名秀明
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/10/07
- メディア: 文庫
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